おのころ雫塩(淡路島/2021年4月19日)

飲食の仕事で全国を転々としていた末澤さんが、人間が生きていくのになくてはならない「塩」の製造に興味をもち、1993年に淡路五色浜に移住。脱サラファクトリーという会社を立ち上げ、自凝(おのころ)雫塩としての活動を始められました。海に面した荒れ放題の土地を借りて、大規模な機械を使わずに自らの力で草を刈り開墾されたそうです。

普段の料理でもいちばんと言っていいほどよく使う塩ですが、海水からできているという漠然としたイメージしかなかった私たちにとって、末澤さんの塩作りは想像を遥かに超えるものでした。

末澤さんが目指すのは、古代海水に近い濃度の塩。それは人が美味しいと感じる塩分濃度であり、また私たちがお腹の中にいた頃の羊水の濃度と同じとされているそうで・・初めて知りました。

海の水が澄んでいる満潮の頃に海水を汲み上げ、逆浸透膜で濾過して効率よく濃縮。布がついた風車のようにくるくる回る装置の上から海水を落とし、太陽と海風の力で、上から落ちてきているところを見学しながら、いったん濃縮された海水を味見。もちろんしょっぱいですが、軽い苦みと海藻のような風味、旨味を感じました。

次に、その横の小屋にある鉄釜で30時間、薪を燃やしてじっくり炊き上げるうちに、塩の花といわれる美しい塩の結晶が浮かび上がってきます。そうして煮詰められた塩は同時に生じたにがりとともに杉樽で寝かされます。樽の中にはきらきらと美しいピラミッド型となった結晶があり、柔らかく甘みを伴う味わいの見事な塩が出来上がっていました。

この丁寧な工程を経て取れる塩は海水100トンに対して100キロ、つまり1/100とわずかな量です。

日本は世界でも一番塩の作り方が多いといわれているそうで、「どれが正解かではなく、どんな塩を作りたいか」と繰り返し話されていた言葉に、末澤さんの強い志とこだわりが伝わってきて、ありがたくいただきたいと思いました。

 

草創自然農園(淡路島/2021年4月19日)

みかんの木が目印の小道を抜けると、海を望む棚田。そこには田中さんご夫妻が営む草創自然農園と、その暮らしが広がっていました。

畑に入る前にみんなで話をしていると、いつもと違う雰囲気に気づいたのでしょうか、にわとりの鳴き声が聞こえてきました。平飼いの有精卵を産むメスとオスのにわとり、そして花の周りを飛び交う日本蜜蜂たちも家族のように共に暮らし、固定種・在来種の種から自然農をベースとして様々なハーブや野菜を育てていらっしゃいます。

畑の向こうには、大きなさくらんぼの木。収穫の時期は、みんなでさくらんぼの争奪戦がおこり、早朝から賑やかな鳥たちに起こされるそう。『もう少しして梅雨時期になるといろいろな作業が大変になるけど、雨が降るからこそいい面もある、何事も良い面も悪い面もあるものなんだよね。』と笑顔で話されるお二人を見ていて、心から自然と向き合い、愛情をもって育てているんだなぁ・・とひしひしと伝わってきました。

さらに畑を進むと竹林があり、その中では原木椎茸を育て、車で5分ほどの少し離れた場所にある、瀬戸内海にのぞむ大きな段々畑ではライ麦を栽培されています。

お二人で作業するにはとても広い敷地でたいへんそうに思いましたが、どこを見ても自然で、それでいてどこもきちんと整えられていることにも驚き、強い印象をもちました。

健やかな空気と風景のなかにたたずむ美しい調和に満ちた畑、それはお店に野菜を届けにきてくださるときのお二人の印象そのものでした。

 

大村農園(淡路島/2021年4月19日)

淡路の北淡インター降りてすぐの大村農園さんを訪ねました。海が見渡せる場所にあり、さわやかな海風と豊かな太陽光を浴びる畑で、玉ねぎ、イチジク、お米などを栽培されています。

淡路島に移住後、思いも寄らず農家の道へと進むことになったと話す大村さん。紆余曲折の末、玉ねぎを自然農で栽培している人たちとの出会いを経て、現在のスタイルへと辿り着いたそうです。

“昔からその土地で作り続けられてきたものは、その土地の気候や土に合っていて、良いものができる”

大村さんは無肥料・無農薬で栽培。たとえ有機肥料を用いる場合も、どこか他の土地から運ばれてきたものではなく、この地にあるものを。土の中の水はけと風通しをよくし、微生物が暮らしやすい土を作ることを心掛けていると話されていました。ふかふかの土で育った大村さんの玉ねぎは水分のバランスが良く、しっかりとした旨味があり、煮て良し、焼いて良しの美味しさです。

「不揃いだったり、形が悪いものがあるのは自然の中では当たり前なこと。自然農を続けていくためには、買い手の理解と支持が必要」 実際に畑に入り収穫をさせていただきましたが、大小と形は違えども、どれもすくすくと気持ちよさそうに育っていました。最近は、雑草対策のために用いるマルチはトウモロコシ原料で土に帰るものを採用したり清潔そのもののバイオトイレを導入したりと、循環可能農業に取り組まれているとのこと。

安全で美味しいものを食べることができるのは、農家さんたちの熱心な取り組みがあってのことで、買い手の選択もひとつの大きな役割を担っている。大村さんが思い描く循環の輪の中には私たちもいる、そう思える訪問になりました。

 

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